子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 保名さんに名前を呼んでもらえたのも、これが初めてだった。

「どうしたんだ、うつむいて」

「ご、ごめんなさい。あの、私……恥ずかしくて」

 耳まで熱くて、保名さんの顔を見られない。

「ちょっと褒められたくらいで照れるなんておかしいですよね。すみません」

 今日、私は保名さんの、ひいては久黒庵の後継ぎの妻としてこの場に赴いている。

 こんな女を妻にしたのかと思われないように平静を装うとしたけれど、顔の火照りがいつまで経っても収まらない。軽く手で扇いでもまったく涼しくならないのは空調のせいではないだろう。

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