子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 この場でへたり込まなかったのは奇跡だったのだろう。

 保名さんが弥子と結婚してしまう。

 手紙に書かれていた結婚の申し出は、弥子に対してのものだったのか。

 いや、それも当たり前だ。内外で問題のある娘だと囁かれている私など、どうして歴史のある葛木家がほしがるというのか。

「おめでとうのひと言もないなんて、妹が自分より先に結婚するのがそんなに許せない?」

 弥子よりも落ち着いた、それでいて彼女以上の毒を持った声は母のもの。

「ごめんなさい。驚いてしまって……。おめでとう、弥子」

「ありがとう。琴葉もいつか結婚できるといいね。一生無理だろうけど」

 早くこの場から逃げ出したい。
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