子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 悲しい気持ちになりながら庭に出て、この家で唯一安心できる池の前でしゃがむ。

 金魚が泳ぐ池の側にはいくつもの種類の花が咲いている。四季によって変わる景色は、私と実母の好きなものだった。縁側からは陰になっていて、誰の目にもつかないところもいい。

 母亡き後は私が花壇の手入れをしており、今も悲しみを紛らわせるために手を伸ばしたのだが。

「痛っ……」

 触れられることを拒むように、鋭い葉が指を切る。

 じん、と熱にも似た痛みが滲んだ後に、赤い血が傷の線に沿って浮かび上がった。

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