子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 私ではなく彼こそが、勝手に庭に迷い込んだ侵入者ではないか。

 だけど、名も知らない少年から睨むように見下ろされ、強気に出られるような性格はしていなかった。

「黙っててやるから、人が来る前に出て行けよ」

 彼は他人の目を気にしているのか、来た道を軽く振り返った。

 そんなふうに言われても出て行く先などない私は、その場から動けない。

 私が動こうとしないことに気付いたのか、彼は眉根を寄せてから腕を伸ばした。

 手を掴まれてびくりと肩が跳ねる。強い力からは優しいものを感じなくて恐ろしくなった。

 彼もまた、母や妹や、一部のお手伝いさんのように私を叩くのだろうか?

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