子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
「……やす、な。保名……」

 長い間、ずっと好きでい続けた人の名前は、私にとってあまりにも特別すぎる。

 ますます顔が熱くなってシーツに顔を押し付けると、保名さんの香りがふわっと鼻孔をくすぐった。

 慌てて顔を離し、深呼吸してから洗濯機のもとへ向かう。

 無心になって洗濯物を入れ、スイッチを押した時だった。

 滅多にならない家の電話がけたたましく騒ぎ始める。

 保名さんのことばかり考えて緩んでいた気持ちが、突然の音で急に引き締まった。

 不意に嫌な予感を覚えるも、その時にはもう受話器を手に取っていた。

「はい、もしもし。葛木です」

『あ、琴葉? 私だけど』

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