子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 電話の向こうから聞こえた弥子の声に、甘い気持ちの余韻が完全に消える。

「……どうかしましたか?」

 保名さんと過ごす中で使わなくなっていった敬語を久々に口にする。

『今からうちに来て。お母さんもいるから』

「えっ、そんな急に――」

『大事な話があるから絶対に来てよ』

 弥子は一方的に言うと、すぐに電話を切ってしまった。

 彼女の声がしなくなった受話器を片手に、呆然と電話を見つめる。

 大事な話とはなんだろう。

 先ほどは見過ごした嫌な予感が、存在を主張するように私の中で鎌首をもたげた。



 久々の実家に向かうと、すぐに奥の客間へと導かれた。

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