子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
「あんな時にまで俺のことを考えなくてよかったのに。まあ、でも俺はおまえのそういうところが好きなんだろうな」

 二度目のキスは頬ではなく唇に落ちて、また私の涙を誘った。

 目尻から伝う滴を指ですくった保名さんは、あやすように私の頭を撫でる。

「俺と新しい家族を作ってくれるんだろ」

「うん、保名さんがよかったら……」

「おまえな、散々好きだって言ってやったのを聞き流してたのか?」

 瞬きをすると、弾みで新しい涙の粒が落ちた。

「いっそ、泣き止むまで言ってやろうか。好きだって」

「じゃあ、頑張ってたくさん泣くね」

「おい、言わせようとするな。泣き止む努力をしろ」

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