子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 濃厚な抹茶の味を感じるのに、飲み込んだ時の清涼感が素晴らしい。

 まるで今、心地よい風が吹き抜ける茶畑にいるような錯覚。目を閉じれば、夏の風の音が聞こえてくるようだ。

 ああおいしいな、とスプーンを動かしてから、はっと気付いて手を止めた。

 保名さんが私をじっと見つめている。

「もしかして味見したかった?」

「そんなに卑しそうな顔をしてたか?」

 ばつが悪そうに言うと、保名さんはサービスの熱い緑茶を少しだけ飲んだ。

「相変わらずうまそうに食うなと思っただけだ。ほんとに甘いものが好きなんだな」

「うん、好き」

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