子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 後半の呟きは、琴葉に向けてというよりは自分を振り返ってのものだった。

 父は、私生活にはいろいろと問題があっても、本物の和菓子職人だ。

 誰かを想って作るのだと祖父に言い聞かされた父は、俺にも同じ話をした。

 彼が思う食べさせたい女性の数は多すぎたようだ、というのは考えないようにする。

 ああ、と苦笑しながら嘆息する。

 久黒庵の味を継いできた歴代の職人たちも、今の俺のように誰かを喜ばせたくて和菓子を作ってきたのだろうか。

 今の俺ならば職人として店を継げるかもしれない。

 菓子作りを認められるまでには、琴葉との子どもが成人してしまう可能性はあるが。

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