子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 そんなに神妙な顔をして食うものでもないのに、と思う俺の目の前で、彼女が菓子を口に運ぶ。

 しょり、という小気味いい音が聞こえた。

「えっ、おもしろい」

「食った感想がそれか」

「初めて食べる味だなって。甘くておいしいね」

 顔を見ればおいしいという言葉に嘘がないとわかる。

 琴葉はとてもうれしそうだった。

 今日もあいにくの雨だが、彼女の笑顔だけで俺の心は晴れに変わる。

「保名さんにもあげる。あーん」

「自分で食うからいい」

 琴葉の手を掴んで引き寄せ、きっと菓子で甘くなった唇を奪う。

 思った通り、その唇は俺の好きな甘さをしていた。

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