子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 こんなふうに普通に食べようとするから、保名さんに甘党だと言われて、試作品の味見を頼まれるのかもしれない。

「それじゃあ、いただきます。右から食べていくね」

 味見が必要ないはずの、王道の小豆から試食を始める。

 ふるんと揺れる水ようかんの中には、ほっくりと甘く煮た小豆が入っていた。控えめな甘さは水ようかんの喉越しのよさを引き立てており、噛み締めるとほろりと崩れる小豆の食感が楽しい。

 たぶん、保名さんは単純に私に食べさせたくていつもの味を用意してくれたのではないだろうか。私が久黒庵の和菓子を好んでいることを、誰よりも知っているから。

< 355 / 381 >

この作品をシェア

pagetop