子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 またさん付けに戻るのか、とはもうツッコまないでおく。

「俺に疲れさせられるのは嫌なのか?」

「嫌……じゃない」

 強がってみせようとしたのか、不自然に間が空いた。

 こんな小さなことでも嘘を吐けない辺りが、琴葉らしくてかわいらしい。

「ほら、もう一個食え」

 ころんとした親指の爪ほどの大きさしかない石衣を、再び彼女の口に入れる。

 指に触れた唇はまだ熱を持っていて、先ほどの時間の激しさを物語るようだ。

「……あっ、ちょっと待って」

 琴葉は食べさせた石衣を呑み込むと、またつまんだ俺の手を軽く押しのけ、身を乗り出した。

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