私だけを愛してくれますか?

*◇*◇*


今年の夏はやけに暑かった。九月に入っても、なかなか気温が下がらない。

夏の間は観光客が少ないので百貨店も一息つくのだが、また観光シーズンへと突入だ。

先日、社内で大きなニュースが発表された。

二年後にJR京都駅に直結する形で二号店を出すことになったのだ。

本店がある烏丸も便利な場所だが、JR京都駅の比ではない。おそらく集客は三倍以上になるだろうという見立てだ。

二号店に関しては副社長が全権を担うらしい。最近、副社長の姿を社内でめっきり見なくなったのは、この件にかかりっきりだからだろう。

社内ではみかけないが、副社長が『蓮華』に行ったときに「ダイさんが来たけど、来れないか?」と蓮から連絡がくることは何度かあった。でもそれは、理由をつけて断っている。

今日もちょうど向かっている時に連絡が来たので、慌てて引き返したところだ。

あの夜に知ってしまった事実は、かなり私を苦しめた。

既婚者を好きになってしまっていたことへの罪悪感もある。

でも何よりも、そんな状況にも拘わらず、好きだという気持ちを未だに消せない自分への苛立ちがあるのだ。

まだ冷静に話ができるとは思えない。なので、逃げ回っているわけだ。

優吾の時と同じ。正面から向き合うことができない。

全然成長していない自分に嫌気がさすけれど、もう少し時間が必要だった。

< 101 / 134 >

この作品をシェア

pagetop