私だけを愛してくれますか?

「まあ!裕次郎。お待ちなさい。お嫁さんにするかどうかは、ちゃんとお話を聞いてから決めないと」

阿保ボンの母がたしなめるように言う。

お嫁さんにするかどうかって。こちらの意向も聞かずに、勝手に判断されても困る。

「美織さん、ご趣味はなに?」

お決まりの質問が、ボン母(省略)からきた。

「猫の散歩と、お酒を飲むことです」

「まあ!趣味がお酒を飲むことなの?」

ボン母が大袈裟に驚いた声を出した。

『余計なことを言うな』と言わんばかりに、母が蹴飛ばしてくる。

だって、こんなことで嘘をついてどうするの。

自慢じゃないが、趣味はこの二つしかないのだ。

「はい。特にビールと日本酒が好きで、かなりの量をいただけます」

ボン母は目を丸くして、こちらを見ていた。

再び母の蹴りが飛んできたので、サッとよけた。そうそう何度も蹴られるわけにはいかない。草履で蹴られるのは地味に痛いのだ。

コホンと咳をしたボン母からの質問は続く。

「裕次郎は、東京に進出することになっているんですが、当然美織さんもついていってくださるわよね?」

なんだそれ?ソッコーで返事をする。

「私は、くらき百貨店に勤務しております。結婚後も続けるつもりでいますので、京都を離れる気はありません」

「んまあ!」ボン母は、目がこぼれんばかりに見開いた。

『まあ!まあ!』と、さっきからやたらと驚いているが、こっちの方が驚きだわ。

『当然』ってなんだ?

会って間もないのに、なぜ阿保ボンに付いていけと言われなければならない。

憮然としていると、慌てたように阿保ボンが割って入ってきた。

「そのことは、追々話し合うことにしましょう」

いやいや、話し合うも何もないでしょ。結婚が決まってるわけでもないのに。

「裕次郎、きちんと家に入ってくれる人でなければ、結婚は認めません!」

ボン母はキーキーと怒り出した。

「ちゃんと僕が説得するから。ちょっと待ってよ」

私のことはそっちのけで、親子で揉め始める。なんなの、これ?

流石に母も唖然としている。

< 108 / 134 >

この作品をシェア

pagetop