私だけを愛してくれますか?
「まあ!裕次郎。お待ちなさい。お嫁さんにするかどうかは、ちゃんとお話を聞いてから決めないと」
阿保ボンの母がたしなめるように言う。
お嫁さんにするかどうかって。こちらの意向も聞かずに、勝手に判断されても困る。
「美織さん、ご趣味はなに?」
お決まりの質問が、ボン母(省略)からきた。
「猫の散歩と、お酒を飲むことです」
「まあ!趣味がお酒を飲むことなの?」
ボン母が大袈裟に驚いた声を出した。
『余計なことを言うな』と言わんばかりに、母が蹴飛ばしてくる。
だって、こんなことで嘘をついてどうするの。
自慢じゃないが、趣味はこの二つしかないのだ。
「はい。特にビールと日本酒が好きで、かなりの量をいただけます」
ボン母は目を丸くして、こちらを見ていた。
再び母の蹴りが飛んできたので、サッとよけた。そうそう何度も蹴られるわけにはいかない。草履で蹴られるのは地味に痛いのだ。
コホンと咳をしたボン母からの質問は続く。
「裕次郎は、東京に進出することになっているんですが、当然美織さんもついていってくださるわよね?」
なんだそれ?ソッコーで返事をする。
「私は、くらき百貨店に勤務しております。結婚後も続けるつもりでいますので、京都を離れる気はありません」
「んまあ!」ボン母は、目がこぼれんばかりに見開いた。
『まあ!まあ!』と、さっきからやたらと驚いているが、こっちの方が驚きだわ。
『当然』ってなんだ?
会って間もないのに、なぜ阿保ボンに付いていけと言われなければならない。
憮然としていると、慌てたように阿保ボンが割って入ってきた。
「そのことは、追々話し合うことにしましょう」
いやいや、話し合うも何もないでしょ。結婚が決まってるわけでもないのに。
「裕次郎、きちんと家に入ってくれる人でなければ、結婚は認めません!」
ボン母はキーキーと怒り出した。
「ちゃんと僕が説得するから。ちょっと待ってよ」
私のことはそっちのけで、親子で揉め始める。なんなの、これ?
流石に母も唖然としている。