私だけを愛してくれますか?
「ストーーーップ!」
突然テーブルをバシッと叩いて、藤枝先生が叫んだ。
驚きのあまり、みんな一瞬で固まる。
藤枝先生は、咳ばらいをすると凛とした声で話し出した。
「ことぶきさん、あなた方が美織さんをぜひと言ってこられたので、この席を設けたんです。それなのに、美織さんの意向も聞かず、勝手な会話はいただけませんわ」
そこで、私の方をみるとにっこりと微笑んだ。
「美織さんは、くらき百貨店の催事部のエースだそうですよ。私も一度お仕事をなさっているところを拝見しましたが、テキパキとして惚れ惚れするような働きぶりでした」
今度は、阿保ボン親子に向き直る。
「ことぶきさんは、家に入ってくれるお嫁さんをご希望なんですね」
口をぽかんと開けたまま、ボン母が頷いた。
「わかりました。ご希望に合った方をちゃんとご紹介しますわ」
うんうんと頷きながら、藤枝先生は続けた。
「私はご縁を結ぶことが好きですが、結婚してもらいさえすればいいというわけではありません。ちゃんと、『この人とこの人は合う』と判断した人同士のご縁を結びたいんです」
藤枝先生はさらに持論を繰り広げる。
「今の若い女性はいろいろ人生の選択肢がありますからね。美織さんのように、結婚後もお仕事を続けたい方もいれば、結婚後は家に入りたい方もおられます。大丈夫。裕次郎君にぴったりの方は別にいますから」
「そんな…」
阿保ボンはシュンと項垂れた。
さすが、藤枝先生。うまくまとめるなぁ。
ただの仲人好きな人じゃなかった。藤枝先生に結んでもらった縁は、幸せになれそう。
私に合う人も選んでもらえるかな。この後、頼んでみる?
その時…
「すみません、美織にはもう決まった相手がいるんです」
ずっと聞きたくてたまらなかったバリトンが聞こえた。