私だけを愛してくれますか?
部屋を出たところで、慌てて手を振り払う。
「副社長!一体何なんですかっ」
「それはこっちのセリフやろ。今のは『ことぶく呉服店』のボンやな?よりによって、何で阿保ボンと見合いなんかしてるんや」
咎めるように言う副社長に、さらに頭に血が上る。
「私のお見合い相手なんて誰でもいいでしょ!それより、なんで副社長がこんなこをとしたのか聞いてるんですっ」
「なんや、まだ手こずってんのか。大でもうまくいかんことがあるんやな」
ハッとして見ると、『いわくら』の若旦那がニヤニヤしながら見ていた。
「仕事が忙しすぎた。まだ意思疎通がうまくいってないだけや」
不貞腐れたように副社長が答える。
「場所変えて話するぞ」
そう言って、私の手を取ろうとするので、さっとよけた。
「お話することなんてありません!」
「ハハハ、いいぞ!美織ちゃん」
面白そうに笑う若旦那に、副社長はチッと舌打ちをすると、私を抱き上げた。
「騒いだら目立つからな。静かにしとけ」
そう囁くと、大股で歩き出す。
ニヤニヤしている若旦那と、顔を真っ赤にして口元に手を当てている志乃さんが見える。
周りの人も何事かというふうに見ていた。
「具合悪い振りしろ。顔見られずにすむぞ」
きーっ、勝手なことを!!
頭は沸騰寸前だが、でも、今はそれしか方法がない。
仕方なく、辛そうな顔で副社長の腕の中に縮こまる。
「なかなかの演技や」
副社長は、ククッとおかしそうに笑った。