私だけを愛してくれますか?

会館を出てすぐのところに、副社長の社用車が停まっていた。

運転席から結城さんが降りてきて、クスクスと笑う。

「間に合ったようですね」

「なんとかな。藤枝先生がうまくまとめてくれて助かった」

フーっと息を吐いて、副社長は私を降ろした。

結城さんが後部席のドアを開けながら、優しく声をかけてくれる。

「吉木さんもお疲れさまでした。いきなり副社長が現れてびっくりしたでしょう?とりあえず、ゆっくり話ができるところに移動しましょう」

コクっと頷いて、大人しく車に乗り込む。

「結城の言うことは、素直に聞くんやな」

面白くなさそうにぼやいて、副社長は反対側から乗り込んだ。


スーッと静かに車が止まり、副社長が車から降りる。

見慣れたマンションの前だ。

私が降りる方の扉を副社長自ら開けてくれたが、ホイホイと降りることはできない。

「副社長のマンションはまずいんじゃないですか?」

「なんでや?」

「ご家族はお留守なんですか?そうだとしても、勝手に入ることはできません」

「家族?ここは俺が一人で住んでるマンションやぞ」

副社長は、何を言ってるのかというような顔でこちらを見ている。

「うそ!奥様とお子さんが一緒に住んでますよね?」

「は?」

ポカンと口を開ける副社長の顔を見て、結城さんが声を出して笑った。

「吉木さん、何か誤解があったようですが、副社長には奥様もお子様もいらっしゃいません。ここには、副社長がお一人で住んでいますよ。私が保証します」

「えっ!?」

今度は私がポカンと口を開ける番だ。

「お前は、自分が勤める会社の副社長が未婚か既婚かも知らんのか」

地を這うような声で、問いただされる。

「だ、だって、この前見かけて…」

アタフタする私に、副社長は深くため息を吐いた。

「まあいい。とりあえず降りろ。何でそんな勘違いしたんかは部屋で聞く」

すごすごと降り、結城さんに頭を下げる。

「送っていただいてありがとうございました。そういえば、お仕事じゃなかったんでしょうか?帰ってきて大丈夫ですか?」

「ちょうど、仕事が終わって帰ってるところだったんですよ。副社長とゆっくり話をしてくださいね」

終始優しい結城さんに、ホッとする。

「いくぞ」

結城さんと対照的な態度の副社長。相変わらず地を這うような声でせかされる。

怖っ!これから私どうなるの?

引きつる私に、結城さんはにこやかに手を振った。

< 112 / 134 >

この作品をシェア

pagetop