私だけを愛してくれますか?

憧れのマンションに足を踏み入れる。

こんなシチュエーションでも、心が躍った。

だって入ってみたかったんやもの。

素敵!素敵!

マンションのエントランスは落ち着いた雰囲気で、緑が多く、ホテルのラウンジのようにいくつかテーブルとソファーが置いてあった。

コンシェルジュの人が丁寧に出迎えてくれて、「お帰りなさいませ。倉木様」と声をかけてくれる。

「ただいま」

副社長は慣れたように返事をすると、奥のエレベーターホールへと入っていった。

私も頭を下げて、副社長の後に続く。

エレベーターはカードキーをかざすと、すっと扉が開いた。カッコイイ!ホテルみたい。

「キーがないと、エレベーターに乗ることはできひん」

へーっと感心しながら、エレベーターに乗り込む。

副社長は最上階の五階のボタンを押した。

「知ってるやろうが、高層マンションではないからな。あまり景色がいいこともないが、一軒家よりはよく見えるやろ」

うんうんと嬉しそうに笑う私を見て、副社長もクスっと笑った。

部屋の前につくと、扉のロックを外し「どうぞ」と中に入れてくれる。

兄が住んでいる所も感じのいいマンションだが、副社長のマンションは桁外れ。

角部屋の3LDKで、玄関も廊下もリビングも、とにかく何もかもが広々としていた。

あまり景色が良くないと言っていたが、とんでもない!

リビングの窓がちょうど植物園の方向にあるので、緑が美しく見えた。

「部屋をすみずみまで見たいやろうが、話がすんでからや。まあ座れ」

促されてソファーに座る。これもおそらく最高級のものなんだろう。座り心地がものすごくいい。艶々のソファーをそっと指で撫でた。

副社長は手慣れたように、コーヒーを淹れている。

男の人の一人暮らしにしては、ちゃんと生活感のあるキッチンだ。

お料理ちゃんとするんかな?

私は実家暮らしが長いので、料理はあまり得意じゃない。

こんなところまで負けてる気がする。

コーヒーを淹れる姿もカッコよく、ついじっと見ていると、視線に気づいた副社長は表情をフッと緩めた。

淹れ終わったコーヒーを持ってきて、テーブルに置く。

そこまではいい。

でも、その後、私の前に膝立ちになり、両手を私の横についたのは一体なぜ?

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