私だけを愛してくれますか?

*◇*◇*


『おい!吉木さんが見合いするぞっ』

どうしてもずらすことのできない仕事があって、日曜日に仕事をした帰りの車の中だった。

電話を取るなり、焦ったような仁の声が耳に響く。

『なんやいきなり』

『文化会館。藤枝先生の催しをやってる。早く来い!』

それだけを伝えて、電話は切れた。

藤枝先生?

あの先生は若い人を見たら、すぐに縁談を勧めてくる。俺も声をかけられたことがあったが、美織の所にも話を持っていったわけやな。

仕事が忙しくて、美織とは会うことができないままだった。落ち着いたらちゃんと話をしようと思っていたが、危うく横からかっさらわれるとこだ。

うまい具合に文化会館の近くを走行中だったのは、神様が応援してくれているのか。

『結城!文化会館に行ってくれ』

『文化会館?なんでまた』

驚きつつも、ハンドルを切って文化会館に向かってくれる。

『美織が見合いするらしい』

『美織?美織って、もしかして吉木さん?吉木さんがお見合いするのに、なぜ駆けつける必要があるんですか?』

結城は眉間にしわを寄せてミラー越しにこちらを見た。今まで美織とのことを結城に話したことがなかったので、困惑するのは当然だが説明する時間がない。

『またちゃんと説明するが、美織と結婚したいと思ってる』

『け、結婚!?いつのまにつきあってたんですかっ!』

結城は、何が何だかわからないという様子で困惑している。

『詳しいことは今から美織と話し合う。とにかく連れ戻しに行くぞ!』

『………』

結城とは長く一緒に仕事をしているので、突発的な行動をとる俺に慣れている。今は聞いても無駄だとわかっているので、何も聞かずに指示に従ってくれた。

五分ほどで文化会館につき、俺は車を飛び出した。

日ごろのジョギングがこんなところで活かされるとは。息を乱すこともなく、会館の中に走りこむ。

『大!こっちや』

仁は目立つところに立ってくれていた。

これは大きな借りができたな…
でも、俺も仁を助けたことがあるし、持ちつ持たれつということで。

俺の中で勝手に結論を出し、美織の元に向かった。

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