私だけを愛してくれますか?

「ちょっと、ちょっと!大変よ」

電話越しに母の慌てた声が聞こえてくる。
日曜日の午後、妻の美希は友だちとランチをすると言って出かけていて、ぐずる伊織をやっと寝かしつけたときだった。

起こさないように、小さな声で返事をする。

「どうした?」

「美織が倉木さんとお付き合いをしてるんやって!」

「なにーーー!!」思わず大声で怒鳴ってしまう。

『しまった』と思ったがあとの祭り。

伊織はギャアーっと泣き出し、母は「あら、伊織君の声ね」と嬉しそうに言った。

息子をそのまま放って置けず、とりあえず「今から行く」と言って電話を切る。

わんわん泣く伊織を抱き上げながら、「俺も泣きたいよ」と情けない声をかけた。


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