私だけを愛してくれますか?
俺は、小さな頃から“お調子者”として生きてきた。
初対面の人ともすぐに打ち解けるし、場を盛り上げるのも得意。顔は至って普通だが、愛想のよさは天下一品と自負している。
頭はそこそこのレベルだったが、奇跡的に京都の超有名国立大学に受かった時には、驚いた母が寝込んでしまうほどで、周りからの期待はとことん薄い人生を送っている。
反対に妹の美織は、真面目でしっかり者。その上、可愛くて優しいし、頭もいい。
自分で言うのもなんだが、本当に俺の妹なのか?というほど出来のいい妹なのだ。
周囲の人たちからも、俺が褒められることはめったにないが、『美織ちゃんは本当に可愛いわね』と妹のことは褒められる。そんな時は、『そうでしょ?』とつらつらと妹自慢をするのが何より嬉しかった。
たいして出来のよくない俺のことを、『お兄ちゃん、お兄ちゃん』と慕ってくれる美織。美織はとにかく大事な大事な妹なのだ。
美織が『くらき百貨店』に入社すると言い出したときは、本当は嫌だった。友人の倉木大がそこの御曹司だからだ。倉木はいいやつだが、やたらと女性にもてる。学生の頃は、いつ見ても違う女の子を連れていた。
そんな奴に美織が目を付けられたら大変だ。万が一にも、美織と倉木が接点を持たないように、どちらにも俺とつながりがあることは伏せていた。
それなのに、最近になって『お兄ちゃん!うちの副社長と友だちだったの?』と美織から問い質された。『あれ?言ってなかったか?』とごまかしたものの、なぜ美織がそれを知ったのかが気になる。
その時は『いや、ちょっと小耳にはさんで…』とごにょごにょ言っていたのだが、まさかそれが今回の話につながるのか?
まずは、話を聞いてみないことには始まらない。俺は伊織を連れて実家へと急いだ。