私だけを愛してくれますか?
「事情はいま袴田さんから聞いた。吉木は今回の責任者として、なんで『ことぶき』を出店させると決めた?」
キリッとした太めの眉毛に大きな瞳。彫りの深い整った顔は怒るとマジで怖い。
「着物をアレンジした洋服は目新しく、話題になると思いました」
内心では『こわっ』と思っているが、努めて淡々と答える。
パッとこちらを見る袴田さんは、かわいそうなくらい縮こまっていた。
『袴田さんにゴリ押しされたとは言いませんから。大丈夫』
眼で慰めたつもりだけど、伝わってなさそうだ。
「嘘つけ。ねじ込まれたんやろ」
副社長は、〝裏でコソコソ〟が大嫌い。『公明正大』が座右の銘だと聞いたことがある。以前、イベントで扱う商品を自分の知り合いから勝手に仕入れた人がいて、副社長の逆鱗に触れていた。あの時の、副社長の怖さといったら…
今回のようなトラブルがお嫌いなのは百も承知。でも、今は一刻を争うのだ。『ことぶき』を出店させた理由を言い争っている時間はない。
「このお二人の意見も参考にしましたが、店舗の選出は私の一存で決めました。今回、このようなことになってしまったのも、私のリサーチ不足が原因です。本当に申し訳ありませんでした」
これでもかというくらい、深く頭を下げた。