私だけを愛してくれますか?
全ての面接が終わり、会場の後片付けが始まる。
「先輩、今年の最終面接は優秀な子が集まりましたね!」
椅子を片付けながら、後輩の結城がホクホクと喜んだ。
「それに、一人すごく目を引く子がいましたよね」
チラッと思い浮かぶ顔はあったが、「そんな子おったかな」と考える素振りをする。
「吉木美織さん。一見、真面目そうな美人って感じですけど、笑うとすごく可愛い。面接でも生き生きと話してたし、あの子はいいなぁ」
入ってくれたらいいですけど、と合格するのは確実かのように言った。
やはり誰の目にも同じように映るらしい。あの笑顔は印象に残る。
それだけじゃなく、俺には『吉木美織』という名が妙に引っかかった。どこかで聞いたような気がするが…
吉木美織、吉木美織…。どこやったかな。
その時、お調子者の友人のセリフが思い浮かんだ。
『妹の名前は〝美織〟で、どこまでもベタな名前の兄妹です』
エントリーシートをこっそり確認すると、やはり実家が『吉木織物』だった。
そうか、織人の妹か。
あの友人の妹にしては、出来過ぎやな。思わず表情が緩んだ。
花が咲いたような笑顔を思いかえす。
入社してくれるだろうか。あの笑顔をまた見ることができたら…
次の春の楽しみができたな。俺は機嫌よく、仕事に戻っていった。