私だけを愛してくれますか?
四時少し前に、結城さんから副社長が戻ったと連絡がきたので、みんなで会議室に移動する。
ほどなくして副社長が颯爽と入ってきた。
「待たせて悪かったな」
緊張の面持ちで待つ私たちをクルッと見回して、口を開く。
「結論から言うと、『いわくら』が出店してくれることになった」
『よかった…』
これ以外に思いつく言葉がない。詰めていた息を一斉に吐き、胸を撫で下ろした。
「副社長、本当にありがとうございました」
班を代表して、心からお礼を述べた。
副社長は明るい顔で大きく頷き、話を続けた。
「出店してもらうが、今回の担当は若女将にしてもらうことになった。若女将は二十代の半ばやから、イベントのターゲットと同じ年代や。商品の選定や接客においても、いい効果が現れるやろう」
若女将?
若旦那の奥様ということか。
メモに『若旦那の奥様?』と書いて瑠花ちゃんに見せると、情報通の瑠花ちゃんはコクコクと頷いていた。
「こういうイベントは初めてということから、こちら側でバックアップしたい。吉木チーフが直接担当してやってくれ」
そんなことはお安いご用。
最近は責任者の役回りばかりだったので、現場に直接携われるのは逆に嬉しい。
「承知しました」
その後は、イベント全体の進捗状況を報告し、会議はあっさりと終了した。
あんなにバタバタしたのに、『終わり良ければ総て良し』とでも言おうか。
部屋を出ていこうとする副社長を呼び止める。
「副社長、今日は本当にありがとうございました。お忙しいところ、申し訳ありませんでした」
朝からこの件にかかりっきりで、忙しい副社長には負担だったはずだ。他の仕事のしわ寄せがいっていなければよいのだが…
「こんなときに頼ってもらわな俺の存在意義はないからな。気にするな」
爽やかに笑う副社長にドキッとする。穏やかなバリトンも破壊力十分だった。
いや、ドキッじゃないよね。何ときめいてんの、私。
「吉木もお疲れさん」
そう言って立ち去る副社長の後ろ姿は、いつになくまぶしかった。