私だけを愛してくれますか?
家の最寄り駅に着くと、肩の力が抜けた。今朝ここを通過したときには、一日がこんなことになるなんて思ってもみなかった。
アクシデントはあったものの、そんなに残業することもなく帰宅することができたのは、やっぱり副社長のおかげ。
苦手意識が消えたわけではないが、心の中の副社長の立ち位置が少し動いたような気はした。
「ただいま」
思わず疲れた声が出る。
身体的疲労よりも、精神的疲労がひどい。
これはドンちゃんで癒すしかないな。
リビングに入りながら、ドンちゃんを探す。
「ドンちゃーん」
ドンちゃんは、お気に入りの籠から、はみ出るように座っていた。
近寄ってフワフワの毛を撫で繰りまわす。昔は「にゃーん」と喜んでいたのに、最近は野太くグルグルと鳴くだけだ。
猫じゃらしで遊ぼうとしても、前足で面倒くさそうにチョイチョイとつつくだけ。
獣医さんにダイエットを厳命されているので、積極的に猫じゃらしなどで遊ばせているが、なかなか成果は出なかった。
「ご飯を食べたらお散歩に行くよ」
そう声をかけたら、大きなアクビが返ってきた。全くやる気なし。
室内猫のドンちゃんは、毎日お散歩も欠かせない。私もいい気分転換になるので、積極的に担当していた。