私だけを愛してくれますか?

今日は『夏・京都』の各ブースの打ち合わせで、班員みんなバタバタしている。

開催まで一ヶ月余り。ここから準備は佳境に入っていく。

私は全体の責任者だが、『いわくら』だけを個別に担当するので、その打ち合わせがあった。

瑠花ちゃんからは、「『いわくら』の若旦那はむちゃくちゃカッコいいですよ」と言われているので気が重い。


『カッコいい若旦那』

私が最も苦手な生き物だ。

既婚者であっても同じ。いや、何なら既婚者の方が嫌だ。


打ち合わせの為に、副社長を迎えに行く。

あの騒動以来、何かと顔を合わせることが多く、苦手意識は薄れつつある。

ただ、会うたびに副社長がちょっかいをかけてくるのが謎だ。

どのように対処すればいいのか困っているというのが、正直なところ。

会場に向かいながら、今日はビジネス仕様の副社長から、
「若女将はやる気のあるいい子や。しっかりサポートしてやってくれ」と言われる。

副社長と『いわくら』にはどんな関係があるのだろう。打ち合わせに副社長が立ち会うなんて、初めてのことだ。個人的な伝手があるという、その伝手とは何なんだろう。

「承知しております」

疑問はさておき、メガネをクイッと上げながら答える。

「吉木はいつもその返事やな」

苦笑いを返されたが、この返事の何が悪いのかわからない。上司からの命令にはこの返事で正解でしょ。

愛想よく親しみを込めた返事をしろってこと? にっこり微笑んで「副社長のご期待に添えるようにがんばります」と答えるとか?

全ての社員が副社長と親しくなりたいと思ってる訳ではないことを、理解しておいてほしいものだ。

それに、私が返答すると、いつも苦笑いをされるのが微妙に傷つく。
今の自分を否定されているような気になるのだ。

いろいろなことを経て今のスタイルに落ち着いた。本当に放っておいてほしい。

心の中でため息をついた。

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