私だけを愛してくれますか?

*◇*◇*


辻優吾(つじ ゆうご)。

高校生の時の元カレで、私が若旦那嫌いになった一番最初のきっかけを作った男だ。

優吾と私は、部活の陸上部が同じだった。蓮や華と一緒で、高一の時のクラスメートでもある。

背が高くスラリとした体格の優吾は高跳びの選手で、短距離走の選手だった私とはあまり接点がなく、最初はただ、お互い全国大会を目指す仲間という関係だった。

仲よくなったきっかけは、蓮と華がつき合い出したこと。
華といつも一緒にいる私と、蓮と一緒にいる優吾。蓮と華がつき合い始めて、私と優吾も仲よくなっていった感じだ。

優吾は市内の有名旅館の息子だったが、実家のことを鼻にかけることもなく、気さくな性格の人気者だった。ふざけて『若旦那』と呼ぶ人たちもいたが、嫌がることもなく、自分の立ち位置をありのままに受け止めている姿勢が私は好きだった。

高二で二人揃ってインターハイを決めたとき、『美織とこの先もずっと一緒に頑張っていきたい』と恥ずかしそうに告白され、つきあいが始まった。

優しい優吾とはケンカをすることもなく順調につきあいを続けていたと思う。
でも、三年生のインターハイ予選が近づいてきた頃、居残り練習をするので一緒に帰れないと言われることが多くなった。

種目が違うと練習メニューも違うので、それに対して疑問など何もない。
インターハイ予選が終わるまで、とりあえずお互いの競技に専念しようと納得して、距離をおこうと決めた。

インターハイ予選まで後三日となった日、着替えを済ませて帰ろうとした時に、トラックにカラーコーンが一つ残っているのに気づいた。

顧問の先生にバレたら叱られるので、私はそれを用具庫に片づけに行った。運動場にはもう高跳びチームはいなかったので、練習が終わってたら優吾と会えるかな、などと少しワクワクする気持ちもあった。

用具庫はカギが空いていて、中に人がいる気配がする。

ここは、陸上部員の密かないちゃつきポイントになっていたので、そんな現場に遭遇することは避けたい。

恐る恐る中を窺ってみたら、やはり男女が抱き合ってキスをしているではないか!

誰よ、もう! カラーコーンどうしたらいいのよ。

迷った挙げ句、ソロっと入って気づかれないように出てこよう思ったのだが、それが悪かった。

コーンを置いてすぐに出てくればよかったが、恋愛事に興味のある女子高生だ。一体誰と誰?と思ってチラッと見たら、優吾と高跳びの一年生女子だったのだ。

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