私だけを愛してくれますか?
私は雷に撃たれたような衝撃を受けた。
一年生のその子が、優吾のファンだというのは知っていた。
色素の薄いフワフワの髪に小さな顔。アイドルのようにカッコいい優吾は女子から人気があり、私とつきあっていると知っていても、告白してくる子が後を絶たなかった。その子もそのうちの一人だ。
もちろん断ったと思っていたのに。
もしかして断ってなかった?二股かけてたってこと?
私はその場から立ち去ろうとしたが、動揺して、置いてあったハードルに足を引っ掛けて転んでしまった。
ガシャンという大きな音と共に、ズキッという嫌な痛みが足首に走る。
物音に驚いた優吾がこちらを見た時、しっかりと目が合った。
大きく見開かれた目。私が優吾を思い出すとき、いつも思い出されるのがこの顔だ。
私は、ズキズキと痛む足をヤバイとは思いながらも、その場から一刻も早く逃れたい思いだけで必死に走った。
その後のことは、霞がかかったような朧げな記憶しかない。
捻挫した足首は、無理をして走った為に全治一ヶ月の怪我になってしまった。
もちろん三日後に控えていた、インターハイ予選は欠場した。
あの時慌てて逃げずに、堂々と対峙していれば陸上を続けられたのに。
恋愛に気持ちを取られた結果がこれだ。恋愛のいざこざに、必死に頑張ってきた陸上が負けたのだ。
私は自分自身が嫌になってしまって、陸上をやめた。
その後、後輩が催してくれた『三年生を送る会』には参加したが、優吾とはただの一度も話していない。
何回も連絡がきて、待ち伏せされるようなこともあったけれど、一切を拒否した。
華はむちゃくちゃ怒って、優吾と友だちだという理由だけで、蓮と別れてしまいそうになったが、蓮もまた優吾と派手な喧嘩になり、結局優吾と私たち三人は喧嘩別れになってしまったのだ。
『優吾が有名旅館の若旦那だった』
そんな単純な理由だけで、若旦那という職種の人を嫌いになったわけではないけれど、『若旦那』ときくと優吾を思い出す。苦手意識を持つきっかけになったことは確かだ。
最近、やたらと陸上の夢を見ていたのは予知夢だった?
『この前、優吾が来た』という、蓮の言葉に動揺が隠しきれなかった。