私だけを愛してくれますか?
*◇*◇*
私は電車に揺られながら、さっきの蓮との会話を思い出していた。
『優吾がきたの?「蓮華」に?』
動揺して声が震えてしまったのは仕方がないと思う。高校を卒業してからは、噂を聞くことすらなかったんだし。
『たまたま常連のお客さんが連れてきた。優吾も俺たちの店とは知らずに来たんや』
そんな偶然ある? でも狭い京都市内でのこと。あり得ない話ではない。
『優吾は実家の旅館を継いで本物の若旦那になってた。相変わらずの優男やったな』
蓮が思い出し笑いをするようにフッと息を漏らした。
『ふーん』
ちょっと動揺したが、私には関係のない話。じゃあねと立ち去ろうとしたら、蓮の言葉が引き留めた。
『美織に会いたいらしい』
『は?』
何を今さら。もう十年以上前のこと。一体何を話すというのだ。
『華は、このことを美織に話す必要ないって言った。でも、俺は、会うかどうかは美織が決めることやと思う。お前、あの時のことがトラウマの一つになってるやろ。そろそろ向き合ってみるのもいいんちゃうか』
蓮が真剣な目で見ていた。
『会う気があったら言ってくれ。優吾の連絡先は聞いてる。一人で会うのが嫌やったら俺たちが立ち会う。心配せんでも、優吾が何か変なことしてきたら、俺が投げ飛ばしたるから』
蓮は、大きくてかわいい顔をニッと綻ばせた。
*◇*◇*
蓮の言うとおり、私が恋愛に消極的なのは、優吾のことが原因の一つになっていることは確かだ。彼氏が他人とキスしているのを目撃するのは、相当な衝撃。恋愛において大きなトラウマになった。
でも、それよりも、十年以上も経つのに、まだ陸上の夢を見ることの方が問題かも。
高校生の頃の自分の心残りがいつまでも心を縛っているようで辛い。
優吾に会うことで、その心残りから解放されるだろうか。
電車に揺られながら、車窓に映る不安げな顔をじっと見ていた。