私だけを愛してくれますか?
「はよ食わな冷めてしまうな。吉木の大好きなパンが」
茶化したように言われて恥ずかしかったが、話が逸れて助かった。
近くの自動販売機で飲み物も購入し、二人でパンを食べ始める。
サクッとした触感が心地よく、口の中に広がるバターの風味がたまらない。
やっぱりクロワッサン最高!
外で食べるとさらに美味しいよなあ。
クロワッサンの食べ比べとかってどうかな。カレーパンのフェアって聞いたことがあるし、クロワッサンもありじゃない?
イートコーナーを設けて、その場で食べてもらえるようにしたら喜ばれそう。
コーヒーショップやデリカテッセンとかも出店してもらったら、充分食事になりそうやし。
フランスのお店をイメージした店構えにして、イートコーナーは広場にあるカフェのような感じで…
あー、いいかも!
クスクスと笑う声で、現実に戻る。
「普段は仏頂面やのに、休みの日には何考えてるのか丸わかりの顔になるんやな。ニコニコしたり真面目な顔をしたり、せわしないところを見ると、大好きなパンのイベントを企画したいってとこか?」
「なっ!」
パンのイベントのことを考えていたら、副社長の存在を忘れてしまっていた。
もう、今さら取り繕うことはできない。ボロが出るどころか、ボロボロだ。
コホンと咳をして、「そうです」と澄まして答えてみた。
「そんなにパンが好きなんか。パンのイベントはいろんなところで開催してるから、目新しいことは難しいが、一度企画書出してみたらどうや」
パッと副社長の顔を見る。
「私の個人的な趣味が入りますけど、いいと思いますか?」
「女性向けのイベントとして集客が見込める。企画が通る可能性も充分あるやろ。今回の『夏・京都』に出店してもらう高級食パンの店、あれもお前の案やな?」
からかうように問われた、というか断言された。
ハイ、おっしゃる通りです。
今回『夏・京都』に食パン専門店を出店させる予定だが、それは私の案だ。
夏をテーマにしたイベントに、食パンのお店はおかしいんじゃないかと班の中でも反対意見は出た。でも、今回出店してもらうお店は、普段から行列ができるほどの人気店で、私が個人的に買いに行ったときに、たまたま店長さんと話すことができ、イベントの話をしたら前向きな返事をもらえたのだ。
この食パンを自分のところのイベントで販売できるなんて!
この好機を逃すわけにはいかない。
『「京都を盛り上げる」という趣旨にも合っているし、何よりも集客効果があるっ』
私の熱弁に班のみんなは引き気味だったけれど、何とか通すことができたのだ。
「高級食パンは流行ってますので。それ目当てのお客様も増えますし」
言い訳にしか聞こえないだろうが、私の言い分を伝えておいた。