私だけを愛してくれますか?

さっきからずっと頬が熱い。

話の内容は仕事のことなのに、今はプライベートな時間だし、頭の中は混乱状態だ。

この際、『もう、どうでもいいわ』と開き直るしかない。

どうしても聞きたいことがあるし。

「副社長のマンションって、どんな感じなんですか?」

「別に普通のマンションやけど」

何を聞かれているのかわからないという様子で、副社長は答える。

「普通って、どんな風に?全室フローリングですよね。もちろん寝室はベッド?」

食い気味に聞く私を見て、副社長は声を立てて笑った。

「なんや?あのマンションに興味があるんか?」

「うちは昔からある日本家屋なので、マンションに憧れがあるんです。フローリングとか、ベッドとか聞くだけで、あーいいなって。特にあのマンションは素敵だから」

さすがに不躾だったかと、顔を赤らめる。

「今度案内したる。自分で確認したらいい」

「本当に!?わー、楽しみです」

美味しいパンとポカポカとした春の陽射しに癒される。
しかも、蓮と華以外の人と、こんなに話したのも久しぶりで、とても楽しかった。

「ハックション」

派手なくしゃみをして副社長がブルっと震えた。

「あかん、寒くなってきたな」

そうだ!副社長はジョギングの帰りでしょ。

「大変!早く帰ってシャワーを浴びてください。今、副社長に風邪をひかれたら困ります」

「その言い方。俺の体を心配してるんじゃなくて、風邪ひかれたら仕事が滞るから困る、みたいに聞こえるやないか。傷つく」

すねたような口ぶりに笑ってしまう。

副社長はそんな私を見て、目を細めた。

「吉木、ずっとそうやって笑ってろ。お前には、その笑顔が似合ってる」

頭をぽんぽんと撫でられ、カチンと固まる。

最後にとんでもないことを言い残して、じゃあな、と副社長は走り去っていった。

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