私だけを愛してくれますか?
思いもよらぬ美織の過去を聞いた。
高校生の頃とは言え、恋人に裏切られたことは充分トラウマのきっかけになるだろう。
「よし。俺も立ち会おう。大将、相手のことは知ってんのか?」
美織の顔を見ていると、なんとも言えない気分になり、俺は思わずそう口にしていた。
「俺たちはみんな高校の同級生なんです。この前、たまたま優吾がここに来て再会しました。そしたら、美織に会いたいって言ってきて…。美織にとってもトラウマを払拭するいい機会やと思って、『会ってみるか?』って聞いてたとこなんです」
「じゃあ、会う段取りしてくれ。日にちが決まったら連絡して欲しい」
テキパキと仕事の指示のように言うと、大将は複雑そうな顔で聞いてきた。
「あの、ダイさんはどういうつもりで言ってますか?」
「どういうつもりとは?」
「ダイさんにとって、美織は織人さんの妹っていうだけですよね?」
言いにくそうにしている夫に代わって、女将が後を引き取った。
「美織は、優吾のこともそうなんですけど、他にも傷ついた経験があるんです。だから、周囲の人と距離を置くような生活をしていて…。ダイさんが軽い気持ちで言ってるなら、あまり首を突っ込まないでほしいんです」
女将の真剣な顔がキュッと歪む。
「華!失礼やぞ」
大将が慌てて、「ダイさん、すみません」と謝ってきた。
「いや、全然かまわん。三人は本当に仲のいい友だちなんやな」
こわばった顔のままの女将に微笑みかけた。
美織にいい友だちがいてよかった。いま思うのはそれだけだ。
ずっとこうして、美織のことを支えてきてくれたということが本当に嬉しかった。