私だけを愛してくれますか?
「実は、美織とは“友人の妹”という関係だけじゃなくて、もう一つ別の関りがある。女将が言った〝他の傷ついた経験〟の方を俺は知ってるんや。だから、美織が前に進みたいと思ってるのなら、全面的に協力したい」
大将と女将は、驚いたような顔をした。
「俺の名前は『倉木大』。それで察してくれないか?美織のことを傷つけるようなことは絶対にしない。信じてほしい」
「くらきさん…」
女将はしばらく考え込んでいたが、最後にうなずいた。
「わかりました。ご協力よろしくお願いします」
「ありがとう」
頭を下げると、大将は「頭なんて下げんといてください!」と慌てた。
「俺がこの話を聞いたことは、美織には内緒にしとこう。知ったら大騒ぎするやろ」
おどけたように言うと、「間違いなく大騒ぎします」と、大将は明るく笑った。
タクシーを呼ぶように頼み、穏やかな顔で眠る美織を優しくゆする。
「おい、美織。帰るぞ」
イベントが終わった日に、こんなに飲ませたらこうなるな。
苦笑いをしながら頬っぺたを撫でると、気持ちがいいのか美織はフフッと笑った。
保護者のように心配する大将と女将を、間違いなく送り届けるからと安心させ、美織を連れ帰る。
一人では歩けないので支えるように歩き、そのままタクシーに乗り込んだ。
俺の肩に頭を預け、また目を閉じる美織に、やれやれと思う。
「おい、俺の理性に感謝しろよ」
幸せそうに眠る美織の頭に頬を摺り寄せた。