私だけを愛してくれますか?
母は朝食の後片付けをしている。時計を確認したら八時半。父はもう出かけたのだろう。
「あんなに酔っぱらって。気分は? 気持ち悪くはないの?」
蛇口を止めて手を拭きながら、呆れたように母は言った。
「頭がボーっとするけど、それだけ。それより、私、昨日どうやって帰ってきた?」
冷蔵庫から水を取り出し、コップに注ぎながら、恐る恐る訊ねた。
「覚えてないの?本当にあんたって子は!いい年して」
説教が始まりそうなので、げんなりする。母の小言は長いのだ。
「副社長さんが送ってくれたんやないの。支えられて帰ってきたからびっくりしたわ。『遅くなったうえに、こんなに飲ませてしまってすみません』って、謝ってくれて。お母さんの方が恐縮したわ」
ヒッと息を飲む。
「副社長と帰ってきた?支えられて?」
「副社長さん、この先のマンションに越してきたんやってねえ。さすが『くらき』の副社長さんやわ。あのマンションえらい高いっていう評判やのに」
感心しながら母は洗い物の続きを始めた。
「織人の学生時代の友だちって言うから、それもびっくりやったし。あの子にそんな立派な友だちがいるなんて信じられへんわ」
何という言われようだ。いちおう兄も『吉木織物』の副社長なんだが。
ヘラヘラと笑う兄の顔が思い浮かぶ。残念ながら、母の意見はやむを得ない。
「私、なんか言ってた?」
問題はそこだ。
「ありがとうございましたーって、ニコニコしてたわよ。ちゃんとお礼言っときなさい」
……最悪だ。
『酒は飲んでも飲まれるな』昨夜の私に懇々と説教したい。
失礼なことしていたらどうしよう。仕事でこれからも関るのに。
何よりも、優吾のことを話してたら…
暗澹たる気持ちでがっくりとうなだれた。