私だけを愛してくれますか?

母は朝食の後片付けをしている。時計を確認したら八時半。父はもう出かけたのだろう。

「あんなに酔っぱらって。気分は? 気持ち悪くはないの?」

蛇口を止めて手を拭きながら、呆れたように母は言った。

「頭がボーっとするけど、それだけ。それより、私、昨日どうやって帰ってきた?」

冷蔵庫から水を取り出し、コップに注ぎながら、恐る恐る訊ねた。

「覚えてないの?本当にあんたって子は!いい年して」

説教が始まりそうなので、げんなりする。母の小言は長いのだ。

「副社長さんが送ってくれたんやないの。支えられて帰ってきたからびっくりしたわ。『遅くなったうえに、こんなに飲ませてしまってすみません』って、謝ってくれて。お母さんの方が恐縮したわ」

ヒッと息を飲む。

「副社長と帰ってきた?支えられて?」

「副社長さん、この先のマンションに越してきたんやってねえ。さすが『くらき』の副社長さんやわ。あのマンションえらい高いっていう評判やのに」

感心しながら母は洗い物の続きを始めた。

「織人の学生時代の友だちって言うから、それもびっくりやったし。あの子にそんな立派な友だちがいるなんて信じられへんわ」

何という言われようだ。いちおう兄も『吉木織物』の副社長なんだが。

ヘラヘラと笑う兄の顔が思い浮かぶ。残念ながら、母の意見はやむを得ない。

「私、なんか言ってた?」

問題はそこだ。

「ありがとうございましたーって、ニコニコしてたわよ。ちゃんとお礼言っときなさい」

……最悪だ。

『酒は飲んでも飲まれるな』昨夜の私に懇々と説教したい。

失礼なことしていたらどうしよう。仕事でこれからも関るのに。

何よりも、優吾のことを話してたら…
暗澹たる気持ちでがっくりとうなだれた。

< 67 / 134 >

この作品をシェア

pagetop