私だけを愛してくれますか?
瑠花ちゃんは『夏・京都』の成功で、やる気がグッと増したようだ。ライバルの立場にある京極君も張り合うように頑張っている。
こうして、班の中で切磋琢磨できるのは、チーフとしても喜ばしい。
若い子たちに負けないように私も頑張らねば、とこちらも気合が入る。
班の会議では、みんないい案を提出し、活発な意見が交わされた。
最終的には多数決で決めるのだが、今回は私の『クロワッサン食べ比べフェア』を選んでもらえた。新人のように嬉しく、思わず頬が緩む。
「チーフが情熱的なので、思わず票を入れてしまいましたよ」京極君が笑って言った。
瑠花ちゃんも「チーフを見てるだけで、私もこの企画をやりたくなりました」とコクコクと頷いた。
「何か心境の変化でもあったんですか?」ニヤッと笑いながら、小森君が訊ねてくる。
心境の変化…。優吾と会おうと決めたこと? そんなこと言えやしない。
「特にないけど。前からパンのイベントは開催したいと思っていたから」
趣味全開の企画。心をさらけ出したようで恥ずかしい。そっと下を向いた。
「その顔!チーフ最近穏やかで優しい顔してますよね。私も嬉しくなります」
瑠花ちゃんがニコニコと本当に嬉しそうに言う。
「チーフは優しくて仕事もできるし、尊敬できる人だけど、周りの人にチーフの良さがあまり伝わらなくてヤキモキしてたんです」
京極君が珍しく瑠花ちゃんに同調するようにうなずいた。
「俺も思ってました。俺たちにはむちゃくちゃいいチーフなのに、他の部署の人には伝わってないんだろうなって」
感動で胸がじーんとする。なんて嬉しい言葉なんだろう。
人と親しく付き合うのが怖くて、頑なな態度を取ってきたのに。
思えば班のみんなはいつでも私を信じてついてきてくれた。
私がみんなを信じ切れなかっただけ…
「ごめんね」
思わず謝罪の言葉が漏れると、「責めてるんじゃなくて、チーフが笑ってくれたら嬉しいってことです」とみんなが慌ててフォローしてくれた。
『これからはどんどん笑って、怒って、泣いてもらおう』
副社長の言葉が頭をよぎる。実践していけるかな。いや、実践していかなきゃ。
「これからは、みんなに心配かけないようにがんばるわ」
一人ずつを見回しながら言うと、みんな嬉しそうにうなずいてくれた。