私だけを愛してくれますか?
「美織、今さらやけど謝罪させてほしい。あの時、裏切って傷つけた挙句、陸上まで奪ってしまって、本当にすまなかった」
優吾は深く深く頭を下げる。
懐かしいフワフワの髪の毛。触ると柔らかいことを私は知っている。
傷ついた恋だったけど、確かに私は優吾のことが好きだった。初めてのデート、初めてのキス、何もかも優吾が初めてだ。
それだけに、他の女の子とキスをする優吾を見た時の、胸の痛みは激しかった。
大事な陸上を忘れてしまうほどだったのだから。
あれから私は恋愛に消極的になったが、優吾もずっと私を傷つけたことで苦しんだのかもしれない。
頭を下げ続ける姿を見ると、優吾の気持ちが伝わってきた。
「もういいよ。確かに傷ついたし、つらかった。いっぺんにたくさんのものを失ったから。でも、大昔のことなんやって、今、理解できた気がする」
思った以上に優しく言えた。心が和らいできた証拠だ。
優吾はゆっくりと頭をあげて、私の目を見る。
「自分が楽になりたいだけやとわかってるけど、ずっと謝りたかった。自分のしたことで、美織の人生を狂わせてしまったことが本当につらかった…」
目の前の優吾は本当に辛そうに見えた。元々は優しい人なので、私のことは優吾にとってもトラウマだったのだろう。
「あの当時は、女の子にモテてたから調子に乗ってた。でも、まさか美織から陸上を奪うことになるなんて夢にも思ってなかった。ほんまに悪かった…」
優吾はもう一度頭を下げた。
会ってよかったな。優吾のつむじを見ていると、素直にそう思える。
ここから、お互い前を向いて進めばいい。
今度から、陸上の夢を見ても、しっかりとスタートを切って走っている夢になるだろう。
「わかった。優吾の謝罪を受け入れる。わたしも最後、ちゃんと話をすることなく、そのままにしてしまったし。派手に大喧嘩して別れてた方が、お互い悩まなくて済んだかもね」
作り笑いじゃない、本当の笑顔をみせると、優吾もこわばっていた顔を少し緩ませた。
「ありがとう…」