私だけを愛してくれますか?
「遅くなって悪い。美織、大丈夫か?」
……は?
「えっ!なっ、なんで?」
驚きすぎて言葉にならない。
突然の乱入者に、優吾も目を丸くしている。
「初めまして。美織の婚約者の倉木と申します」
余裕たっぷりに挨拶をする副社長に唖然とする。
チラッとふすまの向こうをみると、蓮が笑いをこらえるように揺れていた。
何これ? コント?
「えっ!今、美織は独身やって聞いたとこで…」
優吾は困惑したように、私の顔と副社長の顔を交互に見た。
いや、私も婚約してたなんて初耳ですから…
「美織、ちゃんと説明せなあかんやろ。まあ、まだ結婚してないので、独身であることには間違いないが、もうすぐ結婚しますって言わなあかん」
見たことのない優しい顔でそう言うと、私のおでこをちょんと突いた。
なんでこの人こんなにノリノリ? もしかして、俳優志望だったとか?
「そ、そうだったんですか。それは、失礼しました。あの、今日は昔の話をしたくて美織さんと会わせてもらいました」
さすが、有名旅館の若旦那。今の状況を即座に把握し、優吾は副社長にも謝罪を入れる。
「いや、話は聞いてます。美織がいつまでも昔のことに縛られているようなので、今日はあなたに会う決心がついてよかった。お互いちゃんと消化できたようですね」
穏やかに微笑みながら、なぜか私の頭を撫でている副社長を凝視する。
副社長は、私と優吾の間に何があったかを知ってるってこと?
「はい。美織さんには本当に申し訳ないことをしましたが、こうして会ってもらえてよかったです。でも、婚約してたんですね…。僕が言うことじゃないですけど、どうか幸せにしてあげてください」
最後にもう一度深々と頭を下げると、「では、僕はこれで…」と言って、優吾は帰っていった。
ポカンと口を開けたまま成り行きを見守る。
何から突っ込んでいいのかわからない。
私は、大きなため息をついてうなだれた。