私だけを愛してくれますか?

私が入社して初めて配属されたのは、紳士服売り場だった。
『紳士服』という馴染みのない分野に配属されたので戸惑いもあったが、当時の私は新人らしく、何事にも一生懸命に頑張ろうと意欲に燃えていた。

紳士服売り場には、既製服、下着、装飾小物など多くのコーナーがあるが、私はオーダーメイドのコーナーに配置された。

百貨店でスーツをオーダーメイドするお客様は上客の方が多い。
直属の部長からの最初の指示は、くれぐれもお客様のご機嫌を損ねないように、ということだった。

お客様の中に、有名和菓子屋の若旦那がいた。
人当たりがよく穏やかで、新人の私にもとても優しい方だった。

始めはもちろん、スーツをオーダーするために来店されていたのだが、そのうち注文がないときでも来店されるようになってきた。
来店されると、なぜか私が指名されて呼ばれる。
新人の私がなぜ呼ばれるのかわからなかったが、話を聞くだけでいいからと言われ、いつの間にか私が若旦那の担当になっていた。

そのうち、いろいろとプレゼントをされるようになっていく。
どこかに行ったというお土産だけでなく、私に似合いそうなものを見つけたなどという理由で頂き物をする。
受け取っていいのが判断できず、部長に相談したが、厚意なので受け取ってと言われる。
食べ物なら職場のみんなで分けられるが、装飾品などはとても困った。

これはお客様との正しいやり取り?

疑問に感じるが、新人だしよくわからない。
考えた結果、食べ物以外の物は包み紙も開けずに、そのままの状態で保管するようにした。

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