私だけを愛してくれますか?
その後は、誕生日のお祝いということで、華が美味しい料理を振る舞ってくれた。
「今年の誕生日は特別や。新しい美織の始まりやからな!」
そう言いながら、蓮が私の好物をどんどん運んでくる。
照れてしまって「そんな大げさな」と突っ込みを入れながらも、高校のころからずっとそばで見守ってくれていた蓮と華には、感謝しかない。
「ありがとう…」
かけがえのない親友に、心から感謝した。
帰るときは電車がまだある時間だったが、副社長がタクシーを使うというの、便乗させてもらうことにした。
「どうせ、同じところに帰るんや。乗っていけばいいやろ」
当たり前のようにそう言われると、遠慮する方がおかしい気もしたので。
「お前、明日は何か予定あるんか?休みやろ?」
心地よく車に揺られていると、不意に訊ねられた。
そう、明日は誕生日休暇なのだ。有給がなかなか消化されないので、うちの職場では、誕生日休暇を取得するよう奨励されている。私も毎年取得していた。
七夕が誕生日なので、申請するのが恥ずかしいという問題点があったけれど…
「明日は、神戸に行こうと思ってます。『クロワッサン食べ比べフェア』に出店してくれるお店の目星をつけたので、実際に食べてみたくて」
班の中の話し合いで、大阪は瑠香ちゃんと京極君、京都は小森君、神戸は私が担当することになった。実際に出店してもらうお店はみんなで決めるが、各地区それぞれ四店に候補を絞るところまでは、担当が担うことになっている。
半分仕事絡みだが、休みならば寄り道もできる。久しぶりに神戸に行ってみようという気になったのだ。
「それ、仕事ちゃうんか」
副社長は呆れたような声を出した後、とんでもないことを言い出した。
「よし。俺が車出したる。いろんな店に行くなら、車の方が便利やろ。この前休みが出張で潰れたから、俺も明日は代休や」
びっくりして思わず声が跳ね上がる。
「と、とんでもない!副社長に運転手なんかさせられませんよ」
「運転手ちゃうやろ。現場調査の帯同や。それともお前は、その後にデートの予定があるとでも言うんか?」
なんと失礼な! デートの予定がないことを前提にするなんて。
「…ありませんけど」
でも、結局こう答えるしかない自分も、ほとほと情けない。
「よし、決まりや」
朗らかに言い切られ、明日の予定は決まった。
私の自宅前で一緒にタクシーを降りる。
「じゃあ、明日七時に迎えにくるから。朝ごはんは神戸でクロワッサンやな」
なぜか楽しそうに言い残して、副社長は帰っていった。
朝七時!?はやっ!
もう勝手に決めてしまって…と怒りながらも、頬が緩む。
誰かと過ごす誕生日なんて何年ぶりかな。
弾む気持ちはもう隠せなくなっていた。