私だけを愛してくれますか?

その後は、すぐに帰るのかと思ったら、夜景を見に連れて行ってくれると言う。

「せっかくの誕生日や。寄り道するんもいいやろ」

夜景ポイントは、七夕のせいか平日にもかかわらず多くのカップルでにぎわっていた。

寄り添って見ている人たちの中に、副社長と紛れている非現実的な状況!
居たたまれないとはこのことだ。

でも、夕闇から徐々に浮き出ていく夜景は、幻想的でとても綺麗だった。

「今日は一日クロワッサンやったからな。最後は俺につき合ってくれ」

そう言って、最後に神戸牛のステーキハウスに連れて行ってくれた。

素直に白状すると、こんなに楽しい誕生日は生まれて初めてだ。

副社長に対する尊敬以上の気持ちにも、もう知らん顔はできなくなっている。


「今日は本当にありがとうございました。振り回した挙句に、夕食までごちそうになってしまってすみませんでした」

申し訳なさに縮こまる。自宅まで送り届けてもらい、至れり尽くせりなのだから。

「俺も久しぶりに楽しかった。明日からは職場でも、『新しい美織』でいけよ」

別れ際に優しく諭される。

走り去る車を見送ってから家に入ると、『遅かったな』と言うように、ドンちゃんが出迎えてくれた。

「どうしよう、ドンちゃん。副社長のこと好きになってしまったかも…」

途方に暮れて相談を持ち掛けると、ドンちゃんは細目で笑っているように見えた。

< 91 / 134 >

この作品をシェア

pagetop