元婚約者の弟から求婚されて非常に困っています
この格好だと、誰も私だとは気づかない。
いつもは、伯爵家令嬢として必要以上に人の目を気にしている私にとって、ただのエレノアとして過ごすことができる唯一の時間と言っても過言ではない。
そんな開放感を感じつつ、うーんと、大きく伸びをしてルーナの帰りを待っていた時だった。
「…あれ、君はもしかしてノア?」
…え?
聞き慣れた声に思わず、ビクッと身体がはねる。
おそるおそる声のする方向を振り返ると、
「やっぱりノアだ。久しぶりだね、まさかまたここで君に会えるなんて思わなかったよ」
と、嬉しそうに目を細めるノエルの姿があった。
「ノ……まぁ、エル様でしたわね、お久しぶりです」
嬉しそうな彼とは対象的に引きつった笑みを浮かべる私。
危ないわ、思わずノエルって呼びそうになっちゃった…。
まさか、この姿でまたノエルと再会するなんて思いもしなかった。
しかも、彼は私とエルは、別人だと思っているし。
たらりと、冷や汗が頬をつたうのを感じた。