元婚約者の弟から求婚されて非常に困っています
「エレノアお嬢様、準備ができました」
ルーナに声をかけられ、私はハッと我に返る。
色々一人で考え込んでいるうちにドレスもヘアも準備が終わってしまったようだ。
…私だけで考えてもしょうがないわ。とりあえずは、お父様の顔もあるし応接間に行くしかないのだから。
「お父様、お先に応接間に。こちらもすぐに向かいますので」
未だにソファで項垂れている父に声をかけ、私はスッと背筋を伸ばす。
「…わかった。エレノア…私とコックスは確かに旧知の仲ではある。だからといってお前が気を遣う必要はない。おそらく婚約破棄についての話だと思うが…一番大事なのはエレノアの気持ちだ。私はそこを一番に考えているからね」
「お父様…ありがとうございます」
父親の言葉に私は胸が熱くなるのを感じた。
普通の貴族社会では政略結婚なんて当たり前。そこにはお互いの同意は関係なく、親同士が決めた相手と一生を添い遂げるしか道はない。
特にビクター家のように跡取り息子がいない家では尚更なのに。
…それなのにお父様は、私の気持ちを一番に考えてくれるのね。