求める眼差し ~鏡越しに見つめあう、彼と私の物語~
第一話

予約

 バックヤードの薄暗い中、手にしたスマホの灯りが、私の顔を薄っすらと照らしている。
 電話のコール音が数回聞こえ、相手が出た音がした。

「予約お願いしたいんですけど。」

 月に一回通っている美容室に、予約の電話をいれる。

『はい、ありがとうございます。カードの番号とお名前いただけますか』
「50019 #早瀬 杏子__はやせ きょうこルビ__#です。」
『お日にちは、いつになさいますか?』
「今日の夕方って大丈夫ですか?」
『ご希望の担当者は?』
「黒川さんで」
『確認しますので、少しお待ちください』

 保留音はハワイアン。季節に関係なくハワイアン。そろそろクリスマスの商品が店頭に並びはじめてるのに。

『お待たせしました。夕方でしたら5時からいかがでしょう?』
「はい、お願いします。」
『今日はいかがなさいますか?』
「カットとヘッドスパで」

 これで、今日が乗りきれる。
 これで、一ヶ月乗りきれる。

「はぁぁっ」

 思わず大きなため息が出てしまう。
 今日は朝から、(というか、正確には昨日の夕方から)あまりにも凹むことが続いて、もうエネルギー不足。
 たまらず、トイレ休憩に逃亡。
 さすがに泣くほどではないけど、自己嫌悪MAX。でも、美容室予約したことで、今日の終わりが見えた。
 さあ、再び戦場に向かわなくちゃ、とスマホを握りしめ、気合いを入れた。

「よしっ!」

 バックヤードからフロアに入るドアを開けた。
 予約前よりも、少しは『マシ』になっただろうか。
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