求める眼差し ~鏡越しに見つめあう、彼と私の物語~

カット

 席に戻ると、タオルドライした髪を、黒川さんが迷いなくシャカシャカと切っていく。
 カットしながら、年末年始の話になるのは必然で。

「そういえば」

 ただただ聞きたくない現実というものは、思いのほか目の前に提示されてしまうもの。

「年末に行ったんですよ。早瀬さんのお店」
「そ、そうだったんですか?」

 それに顔をひきつらせながら答えてる私が、自分でもかわいそうやら、なさけないやら。
 その言葉だけで、顔が赤くなっていくのがわかってしまう。
 当然、鏡に映ってる私を見れば、ほぼ実況できてしまうほど。

「お店、お忙しそうだったんで、ご挨拶はできなかったんですけどね」
「あ、そうなんですね。すみません。気付かなくて」

 気付かなかったなんて、半分、嘘。隣の店に入っていくところ、ちゃんと見てたし。
 残念ながら、うちの店に来た姿は確認してないけど。
 でも、そう答えるしかないと思った。

 すると、すーっと耳元に黒川さんは唇をよせて、言った。

「……でも、早瀬さんのお仕事してる姿は見られましたけどね」

 その言葉に、ドキッとする。

 ――いつの間に? 全然気づかなかった。

 しかし、あの混雑の中、気づく方が難しいかもしれない。

「ほんと、大変ですね。あんなに混雑するとは思いませんでしたよ。」

 普通に話し出した黒川さんのペースに、私はついていけない。
 くるくると頭の中は、いつ来てたの? というのでいっぱいになる。

「そ、そうですね。ああいう時期はレジも混みますし、補充も何かと大変で」
「僕には、できませんねぇ。ああいうお仕事」

 真面目な顔でハサミを動かしている彼から、目をそらせない。

「そ、そうですか?」

 チラっと鏡越しに目が合うと、何か思わせぶりに口元だけ笑った。
 クッ、なんだかんだいって、やっぱりカッコイイ。
 恥ずかしくて、すぐに目を逸らしてしまう。

「ええ。僕は、一人一人こなすので精一杯になってしまうので、たくさんお待たせすることになるんじゃないかなと」

 黒川さんだったら、待たされていいって思ってしまうけど。
 その間だけは、私のモノだから……なんて、ちょっと強欲だろうか。

「それに、あれだけの品数を、ちゃんとお客さんに説明してるのとか、すごいと思いましたよ」

 ……う、うんっ!?
 ど、どこまで見てたの!?

「え。私の接客とか、見てたんですか?」

 ひきつってる顔が、鏡に映る。

「ええ。少しだけ」
「ぜ、全然気づきませんでしたっ」
「そうみたいですね」

 そう言って、楽しそうに笑う黒川さん。
 いやいや、ちょっと怖いんですけど。
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