求める眼差し ~鏡越しに見つめあう、彼と私の物語~
第四話
予約
バレンタインデーが過ぎた。
せっかく、その日はシフトが入っていなかったというのに、誰にチョコを渡すでもなく、家にこもっていた私。
前にカットしてから、まだ一か月にもならなかったから、せっかくの休みでも、予約もしなかった。
ほぼ、家と職場との往復の私には、出会いらしい出会いもなくて、強いて言うなら、黒川さんくらいしか頭に思い浮かばない。
野村さんも名刺をいただいたけれど、さすがに、簡単にメールとかする勇気もない。
――そういえば、私、黒川さんの連絡先、知らないや。
実家住みの私だけれど、美容室に行かない限り、黒川さんと会うこともない。
今でも黒川さんが実家に住んでいるのか、それとも家から出ているのか。
――それに、黒川さんって、彼女とか、奥さんとかいるんだろうか。
色々考えてたら、なんだか、私、黒川さんのこと、何も知らないんだな、というのを思い知らされた。
店のディスプレイは、すっかりひなまつり。桃の節句だけど、桜色一色。
「Wow!! Beautiful!」
桜色の大きな招き猫を目の前にして、白人のカップルが盛り上がってる。
「あれ、かわいいとは思うけど……買う人いるんですかね」
思わず、ぼそりと店長に言う。
「金ぴかのを買って行く中国人のお客さんもいるんだから、あれだって、買う人いるわよ」
顔をあげずに、伝票のチェックをしている店長。
そして、抱えるほどの大きさの桜色の大きな招き猫を、先ほどのカップルが抱えて持ってきた。
「いらっしゃいませ~」
あちらは完全に英語で話しかけてくるけど、こっちはカタコトしか話せない。それでも、なんとかしのげるようになったのは、経験の賜物。
満足そうな笑顔で去っていくカップルを見送ると、一仕事終えた、という達成感で、私も微笑んでいる。
「いいなぁ」
同じようにカップルを見送っていた店長がポツリとつぶやく。
「いいですねぇ」
そう言いながら、桜色の招き猫のいなくなったところに、新しい商品を置くべく、在庫をあさる。
あ、同じような柄で、少し濃い目のピンクの子がいた。
「そういえば、店長……筋肉くんとは、あれから、どうですか?」
店長の恋バナを思い出してそう言いながら、箱から取り出す。
「えっ?」
店長の声に、思わず振り向くと、少し頬を染めて乙女な店長がいた。
「え?……もしかして」
「え?」
「もしかしちゃったんですかっ!?」
濃いピンクの子を、慌てて箱に戻して、店長のところに駆け寄ると。
「え、えへ。連絡先だけだけど……交換してもらえたの」
くぅぅっ!
いつもは、ピシッとしっかり者な店長が、乙女してるっ! 乙女してるよっ!
思わず身悶えることを、止められない私。
「わ~、店長、やったじゃないですかっ!」
「う、うん……」
わきゃわきゃしたいところだったけれど、新しいお客さんが入って来たのが見えたので、途中になっていた補充に戻った。
バレンタインディに店長が頑張ってチョコを渡したという話は聞いていたけれど、あの筋肉くんが、ちゃんとそれに応えてくれたなんて。
あきらかに、筋肉くんより、店長のほうが年上なんだけど、それでも連絡先を教えてくれたっていうのは、自分のことみたいに嬉しい。
――そっかぁ。
ダメでも、やっぱり、何もしなければ、何も始まらない。
黒川さんのこと、何も知らないから、まずは、黒川さんのことが知りたい、と思う。
「店長、ちょっと外します~」
そう言って、バックヤードにかけこんで、スマホを取り出した。
「……あ、予約お願いします。」
せっかく、その日はシフトが入っていなかったというのに、誰にチョコを渡すでもなく、家にこもっていた私。
前にカットしてから、まだ一か月にもならなかったから、せっかくの休みでも、予約もしなかった。
ほぼ、家と職場との往復の私には、出会いらしい出会いもなくて、強いて言うなら、黒川さんくらいしか頭に思い浮かばない。
野村さんも名刺をいただいたけれど、さすがに、簡単にメールとかする勇気もない。
――そういえば、私、黒川さんの連絡先、知らないや。
実家住みの私だけれど、美容室に行かない限り、黒川さんと会うこともない。
今でも黒川さんが実家に住んでいるのか、それとも家から出ているのか。
――それに、黒川さんって、彼女とか、奥さんとかいるんだろうか。
色々考えてたら、なんだか、私、黒川さんのこと、何も知らないんだな、というのを思い知らされた。
店のディスプレイは、すっかりひなまつり。桃の節句だけど、桜色一色。
「Wow!! Beautiful!」
桜色の大きな招き猫を目の前にして、白人のカップルが盛り上がってる。
「あれ、かわいいとは思うけど……買う人いるんですかね」
思わず、ぼそりと店長に言う。
「金ぴかのを買って行く中国人のお客さんもいるんだから、あれだって、買う人いるわよ」
顔をあげずに、伝票のチェックをしている店長。
そして、抱えるほどの大きさの桜色の大きな招き猫を、先ほどのカップルが抱えて持ってきた。
「いらっしゃいませ~」
あちらは完全に英語で話しかけてくるけど、こっちはカタコトしか話せない。それでも、なんとかしのげるようになったのは、経験の賜物。
満足そうな笑顔で去っていくカップルを見送ると、一仕事終えた、という達成感で、私も微笑んでいる。
「いいなぁ」
同じようにカップルを見送っていた店長がポツリとつぶやく。
「いいですねぇ」
そう言いながら、桜色の招き猫のいなくなったところに、新しい商品を置くべく、在庫をあさる。
あ、同じような柄で、少し濃い目のピンクの子がいた。
「そういえば、店長……筋肉くんとは、あれから、どうですか?」
店長の恋バナを思い出してそう言いながら、箱から取り出す。
「えっ?」
店長の声に、思わず振り向くと、少し頬を染めて乙女な店長がいた。
「え?……もしかして」
「え?」
「もしかしちゃったんですかっ!?」
濃いピンクの子を、慌てて箱に戻して、店長のところに駆け寄ると。
「え、えへ。連絡先だけだけど……交換してもらえたの」
くぅぅっ!
いつもは、ピシッとしっかり者な店長が、乙女してるっ! 乙女してるよっ!
思わず身悶えることを、止められない私。
「わ~、店長、やったじゃないですかっ!」
「う、うん……」
わきゃわきゃしたいところだったけれど、新しいお客さんが入って来たのが見えたので、途中になっていた補充に戻った。
バレンタインディに店長が頑張ってチョコを渡したという話は聞いていたけれど、あの筋肉くんが、ちゃんとそれに応えてくれたなんて。
あきらかに、筋肉くんより、店長のほうが年上なんだけど、それでも連絡先を教えてくれたっていうのは、自分のことみたいに嬉しい。
――そっかぁ。
ダメでも、やっぱり、何もしなければ、何も始まらない。
黒川さんのこと、何も知らないから、まずは、黒川さんのことが知りたい、と思う。
「店長、ちょっと外します~」
そう言って、バックヤードにかけこんで、スマホを取り出した。
「……あ、予約お願いします。」