求める眼差し ~鏡越しに見つめあう、彼と私の物語~
従業員用の出口を出たところに、野村さんがスマホをいじって立っている姿が見えた。
なんとかスルーをしようとしたけれど、野村さんは見逃してはくれなかった。
「待って、待って」
「あー、まだいたんですかー?」
なんとか笑顔を作れているとは思うけど。
「ひどいなぁ。待ってるって言ったじゃないですかぁ」
もう、行くのが、確定ってことみたいだ。
仕方なしに、彼の隣を歩きながら、ついていく。
そして野村さんが連れて来てくれた店は、駅を挟んだ反対側にあった。
「こっち側ってあんまり来ないんですよね。」
少し古い商店街を抜けていった先、住宅街が始まる境界くらいのところに、その店はあった。
てっきり野村さんが連れてきてくれるような店は小洒落たイタリアンとかかな、と思ったら、昔からあるような定食とかを出すような店だった。
「いらっしゃいっ!」
「おばちゃん、ビールねぇ」
飲むつもりはなかった私に、断りもなく頼む野村さん。
「あ、ごめん、早瀬さんはビールじゃないほうが、よかった?」
店の入口近くの席に座りながら、すぐにテーブルに届いたビールの小瓶から、グラス二つに注いでいく。
私が断るという前提はないんだ。
なんというか、呆れながら、手書きの小さいメニューを見ながら選んでる野村さんを見つめる。
「なにー? そんなに俺ってイケメン?」
「は?」
メニューから目をあげずに笑う野村さん。
「フフフ。冗談です。あ、この店、普通にご飯旨いから。えーと、俺のオススメは、煮魚定食」
こんな時間になっても定食出してくれるんだ、と、驚きながら店の中を見回す。
年季が入った店の壁の色。
お店のお客さんも、地元のおじさんたちが多そうだ。
「じゃあ、それで」
「よし、じゃ、俺も同じの」
「あいよー」
グラスを合わせて乾杯すると、野村さんは一気に飲んだ。
私はそんなにお酒に強いわけではないので、ちびりちびりと口にする。
「早瀬さん」
「はい?」
「俺と付き合わない?」
口にグラスをつけたまま固まる私だったけれど、ゆっくりとグラスを離す。
「急にどうしたんですか。」
今までも、美容室で冗談半分な感じで揶揄われてたけれど。
目の前にいる野村さんの顔は、真面目な表情。
「急にでもないよ。うちの店に来るたびに、それとなくアプローチしてたつもりなんだけど」
半分ほど飲み切ったグラスをテーブルに置くと、グラスの縁を細い指でなぞりながら、熱のある瞳で見つめてくる。
「ま、またぁ、野村さん、私なんかからかって楽しいですか?」
なんとか顔は引きつってなかったと思う。
ちゃんと笑えて返せたと思う。
「俺、本気なんだけど」
「はい、お待ちどうさま~」
ドンドン、と注文した料理がテーブルの上に置かれる。
「おばちゃん、タイミング悪すぎるよ」
ムッとした顔で、運んできたおばさんを睨みつける。
「あら、なに、ごめんなさいねぇ~」
カラカラと笑いながら去っていくおばさんを、あっけにとられて見ていたら、なんだか笑いがこみ上げてきた。
「早瀬さん、そこ笑うとこ?」
野村さんの情けない声で、余計に笑ってしまって。
「ご、ごめんなさいっ、止まらないんですっ……ぷ、くくくく」
「もう……自棄食いだっ!」
結局、野村さんの返事もせずに私たちは食事だけすると、駅前で別れた。
まだ少し肌寒い風に撫でられた髪を押さえる。
「……黒川さんに会いたいな」
明日、予約の電話をしよう、と思った。
なんとかスルーをしようとしたけれど、野村さんは見逃してはくれなかった。
「待って、待って」
「あー、まだいたんですかー?」
なんとか笑顔を作れているとは思うけど。
「ひどいなぁ。待ってるって言ったじゃないですかぁ」
もう、行くのが、確定ってことみたいだ。
仕方なしに、彼の隣を歩きながら、ついていく。
そして野村さんが連れて来てくれた店は、駅を挟んだ反対側にあった。
「こっち側ってあんまり来ないんですよね。」
少し古い商店街を抜けていった先、住宅街が始まる境界くらいのところに、その店はあった。
てっきり野村さんが連れてきてくれるような店は小洒落たイタリアンとかかな、と思ったら、昔からあるような定食とかを出すような店だった。
「いらっしゃいっ!」
「おばちゃん、ビールねぇ」
飲むつもりはなかった私に、断りもなく頼む野村さん。
「あ、ごめん、早瀬さんはビールじゃないほうが、よかった?」
店の入口近くの席に座りながら、すぐにテーブルに届いたビールの小瓶から、グラス二つに注いでいく。
私が断るという前提はないんだ。
なんというか、呆れながら、手書きの小さいメニューを見ながら選んでる野村さんを見つめる。
「なにー? そんなに俺ってイケメン?」
「は?」
メニューから目をあげずに笑う野村さん。
「フフフ。冗談です。あ、この店、普通にご飯旨いから。えーと、俺のオススメは、煮魚定食」
こんな時間になっても定食出してくれるんだ、と、驚きながら店の中を見回す。
年季が入った店の壁の色。
お店のお客さんも、地元のおじさんたちが多そうだ。
「じゃあ、それで」
「よし、じゃ、俺も同じの」
「あいよー」
グラスを合わせて乾杯すると、野村さんは一気に飲んだ。
私はそんなにお酒に強いわけではないので、ちびりちびりと口にする。
「早瀬さん」
「はい?」
「俺と付き合わない?」
口にグラスをつけたまま固まる私だったけれど、ゆっくりとグラスを離す。
「急にどうしたんですか。」
今までも、美容室で冗談半分な感じで揶揄われてたけれど。
目の前にいる野村さんの顔は、真面目な表情。
「急にでもないよ。うちの店に来るたびに、それとなくアプローチしてたつもりなんだけど」
半分ほど飲み切ったグラスをテーブルに置くと、グラスの縁を細い指でなぞりながら、熱のある瞳で見つめてくる。
「ま、またぁ、野村さん、私なんかからかって楽しいですか?」
なんとか顔は引きつってなかったと思う。
ちゃんと笑えて返せたと思う。
「俺、本気なんだけど」
「はい、お待ちどうさま~」
ドンドン、と注文した料理がテーブルの上に置かれる。
「おばちゃん、タイミング悪すぎるよ」
ムッとした顔で、運んできたおばさんを睨みつける。
「あら、なに、ごめんなさいねぇ~」
カラカラと笑いながら去っていくおばさんを、あっけにとられて見ていたら、なんだか笑いがこみ上げてきた。
「早瀬さん、そこ笑うとこ?」
野村さんの情けない声で、余計に笑ってしまって。
「ご、ごめんなさいっ、止まらないんですっ……ぷ、くくくく」
「もう……自棄食いだっ!」
結局、野村さんの返事もせずに私たちは食事だけすると、駅前で別れた。
まだ少し肌寒い風に撫でられた髪を押さえる。
「……黒川さんに会いたいな」
明日、予約の電話をしよう、と思った。