求める眼差し ~鏡越しに見つめあう、彼と私の物語~
シャンプー
予約はすぐにとれて、翌日の午後に美容室に向かうことになった。
そして、今、私はシャンプー台に横たわってる。
ここのところすぐに黒川さんの指名ですぐに予約が取れたのに、今日に限って黒川さんが不在だった。
「ご予約の時間までには戻る予定だったんですけど」
受付の女の子が、すまなそうに話してる。
「お待ちになりますか? それとも、別のものに変わりましょうか?」
どうしようか、迷っていると
「たぶん、もう少ししたら戻ってくると思いますので、先にシャンプーだけでもしておきますか?」
私の背後に野村さんが立って、そう言った。
有無を言わせない笑顔の野村さんに、気圧されたように頷いてしまう。
そして緊張しながら横になっている私。
その隣で野村さんが、シャンプーの用意をしている。
この状況で、緊張しないなんて、無理だ。
結局、あの時の返事だってできていないんだもの。
「早瀬さん、緊張しすぎです」
クスクス笑いながら、私の髪を濡らしていく。
その指先の力が優しくて、ゆっくりと私の緊張も解してくれる気がしてくる。
「黒川さんが戻ってくるまで、まだ時間があるかもしれないから」
頭から手が離れ、何かゴソゴソ音がする。
顔にかけられたガーゼのような布のせいで、何をやってるのかまではわからない。
「これ、メーカーさんがサンプルで置いてった奴なんだけど。」
そう言って、チュルリ、と音を立ててとりだしているみたい。
濃厚なバラの香りが漂ってくる。
「ちょっと香りがキツイかな?流してしまったら、少しは落ち着くかもしれないけど。」
ゆっくりと疲れを揉み解すように頭皮をマッサージしてもらってる気分。
可愛らしい感じの野村さんのイメージとは違い、やっぱり男の人なんだよなって思わせる大きな手。
「このシャンプー、実は媚薬効果があるんだって」
うなじのあたりを持ち上げて、シャンプーの泡を流しにかかる野村さん。
お湯の温度がちょうどよくて気持ちいい上に、緩やかに揉み解されて、なんだか蕩けそうになる。
「え?」
気持ちよすぎる上に、優しい声のトーンのせいで、野村さんの言葉をスルーしかけた。
「フフフ。気持ちよかった?」
ガーゼ越しだから野村さんの表情はわからない。
でも、私のことをからかってるんだな、というのはわかる。
「おかゆいところは、ございませんか?」
いつもの接客モードに変わった野村さんに、「大丈夫です」と答えると、シャンプーの泡を一気に流される。
濃厚なバラの香りは、まだ私の周りに漂っている。
媚薬効果は冗談だったとしても、少しだけ気分がゴージャスになった気がする。
「ゆっくり起き上がってくださいね」
濡れた髪をタオルで優しく包みながら、座席があがっていく。
ガーゼをはずされると、視界が室内の明りで白くなる。
「ふぅ」
「お疲れ様でした」
起き上がった私の背中に優しく手をあてる野村さんに、ドキッとして顔を向けると、ニコリと笑顔を返してくる。
――もう。この人はどれだけ私をからかおうというのだろう。
手の熱から逃れようと、少しだけ早めに歩いて、案内された席に座ると、そのままの流れで野村さんはマッサージを始めた。ゆっくりと柔らかく揉む動きに眠気を誘われ、うつらうつらしそうになった時。
「お待たせしました」
少し慌てたような声の黒川さんが現れた。
急いで戻ろうとした証拠に、 鏡に映る黒川さんは、少しだけ額に汗が浮かんでるようだった。
「あ、いえ、大丈夫です」
いつも大人びて冷静なイメージの黒川さんだったから、すごく新鮮でドキッとしてしまう。
でも、すぐにいつもの顔に戻る黒川さん。
野村さんと真面目な顔で話をしている姿を、鏡越しに見つめてしまう。
――やっぱり黒川さんって素敵だなぁ。
思わず見惚れてしまう私なのだった。
そして、今、私はシャンプー台に横たわってる。
ここのところすぐに黒川さんの指名ですぐに予約が取れたのに、今日に限って黒川さんが不在だった。
「ご予約の時間までには戻る予定だったんですけど」
受付の女の子が、すまなそうに話してる。
「お待ちになりますか? それとも、別のものに変わりましょうか?」
どうしようか、迷っていると
「たぶん、もう少ししたら戻ってくると思いますので、先にシャンプーだけでもしておきますか?」
私の背後に野村さんが立って、そう言った。
有無を言わせない笑顔の野村さんに、気圧されたように頷いてしまう。
そして緊張しながら横になっている私。
その隣で野村さんが、シャンプーの用意をしている。
この状況で、緊張しないなんて、無理だ。
結局、あの時の返事だってできていないんだもの。
「早瀬さん、緊張しすぎです」
クスクス笑いながら、私の髪を濡らしていく。
その指先の力が優しくて、ゆっくりと私の緊張も解してくれる気がしてくる。
「黒川さんが戻ってくるまで、まだ時間があるかもしれないから」
頭から手が離れ、何かゴソゴソ音がする。
顔にかけられたガーゼのような布のせいで、何をやってるのかまではわからない。
「これ、メーカーさんがサンプルで置いてった奴なんだけど。」
そう言って、チュルリ、と音を立ててとりだしているみたい。
濃厚なバラの香りが漂ってくる。
「ちょっと香りがキツイかな?流してしまったら、少しは落ち着くかもしれないけど。」
ゆっくりと疲れを揉み解すように頭皮をマッサージしてもらってる気分。
可愛らしい感じの野村さんのイメージとは違い、やっぱり男の人なんだよなって思わせる大きな手。
「このシャンプー、実は媚薬効果があるんだって」
うなじのあたりを持ち上げて、シャンプーの泡を流しにかかる野村さん。
お湯の温度がちょうどよくて気持ちいい上に、緩やかに揉み解されて、なんだか蕩けそうになる。
「え?」
気持ちよすぎる上に、優しい声のトーンのせいで、野村さんの言葉をスルーしかけた。
「フフフ。気持ちよかった?」
ガーゼ越しだから野村さんの表情はわからない。
でも、私のことをからかってるんだな、というのはわかる。
「おかゆいところは、ございませんか?」
いつもの接客モードに変わった野村さんに、「大丈夫です」と答えると、シャンプーの泡を一気に流される。
濃厚なバラの香りは、まだ私の周りに漂っている。
媚薬効果は冗談だったとしても、少しだけ気分がゴージャスになった気がする。
「ゆっくり起き上がってくださいね」
濡れた髪をタオルで優しく包みながら、座席があがっていく。
ガーゼをはずされると、視界が室内の明りで白くなる。
「ふぅ」
「お疲れ様でした」
起き上がった私の背中に優しく手をあてる野村さんに、ドキッとして顔を向けると、ニコリと笑顔を返してくる。
――もう。この人はどれだけ私をからかおうというのだろう。
手の熱から逃れようと、少しだけ早めに歩いて、案内された席に座ると、そのままの流れで野村さんはマッサージを始めた。ゆっくりと柔らかく揉む動きに眠気を誘われ、うつらうつらしそうになった時。
「お待たせしました」
少し慌てたような声の黒川さんが現れた。
急いで戻ろうとした証拠に、 鏡に映る黒川さんは、少しだけ額に汗が浮かんでるようだった。
「あ、いえ、大丈夫です」
いつも大人びて冷静なイメージの黒川さんだったから、すごく新鮮でドキッとしてしまう。
でも、すぐにいつもの顔に戻る黒川さん。
野村さんと真面目な顔で話をしている姿を、鏡越しに見つめてしまう。
――やっぱり黒川さんって素敵だなぁ。
思わず見惚れてしまう私なのだった。