バスストップ
中間テストまでの日々
チッ

と思わず舌打ちがでた。
電車って人身事故とかがある時だけ遅れるけど、なんでバスってこうもしょっちゅう遅れたり早かったりするわけ?

時間読みづらいんですけど。

わたしは腕時計を見て、スマホを見て、自分がけっして定刻に遅れていないことを確かめた。
さて今日のバスはもう行ってしまったのか。それともまだ来ていないのか。
ここから5分バスが遅れてしまうと校門に風紀委員か生活指導の先生が立ってしまう。
校則違反だらけのわたしはたちまち停学まっしぐら。
なんとしてもそれまでには校門をくぐりたい。
わたしはバスが来るであろう道路の先を背伸びして見つめたり、時計を見たり、バスを待っている列の中でひときわ落ち着かない感じでそわそわしていた。

バスの列には社会人、同じ学校の生徒、他校の生徒とさまざまな人種?ジャンル?の人が並んでいる。
職種?いや、でも学生は仕事ではないから職種じゃないか。

あー、まじ国語苦手。
日本語多すぎ。
いや、かといって英語もできないけど。
数学もムリだし、汗かきたくないから体育もいや。
え、わたしって何もできなくない?

料理もできないし、洗濯とか、一緒に洗っちゃいけないものとかわかんないし。

え…わたし、生きていける??

なんて思考がバスだったり学校だったり、将来だったりと飛躍していると、いつの間にかバスが来ていた。
列に並んでいる人たちがどんどん乗り込むとあっという間にバスが埋まっていく。

今日も今日とて満員。
バスの中では息をひそめて、カバンをかかえて、友達からのメールの返信に勤しんだ。

わたしも電車通学がいいなぁ。
メールの返信が一通り終わり、友達が「駅のコンビニにあった新しいスイーツ」の写真をSNSに載せてるのを見て小さくため息をついた。

夏休みまだかな〜。
まだ2年だから、バス通学もあと1年半くらい残ってるんだけど。
家ごと引っ越したりとかしないかな。
いや、家ごと引っ越したいって日本語変かも。

え、てかヤバヤバヤバ!!
これバス停到着してから走らなきゃいけない時間じゃん。
最悪〜
バス最悪〜
これで風紀委員が張り切っていつもより早い時間に来てたりしてたら捕まるかも。

気持ちばっかり逸る。

急がなきゃ、急がなきゃ、急がなきゃ。
スカート丈、長くさせられちゃう。
化粧するなってメイク道具取り上げられちゃう。
持ち物検査でなんか色々持っていかれる。
だから、急がなきゃ。

バス停が近づけば近づくほど焦る。
そしてバスが停車するやいなや、人と人の隙間をすり抜けたり、むりやり体をねじこんだりして我先にとバスを降りようと前に進んだ。

降りる人たちが順番にピッピとカードをかざして精算して降りていく。
さて、次の次がわたしの番、とずいぶんと前から準備して手に握りしめていた交通カードをかざす準備をすると、わたしの前に並んでいた男子高校生があろうことか「あれ?」とつぶやいた。

あれ?じゃないし!

かざしてもカードが反応しなかったらしい彼は再チャレンジしたけれどもやはり無反応。
わたしは背後からこれ見よがしに前を覗き込んだ。
そして再チャレンジする様子を急かすように近距離で見る。

いや、メンタルハガネかよ。
一旦どけよ。

彼はカードを改めて見て「あ…。」と何かに気づいたように、カバンの中をがさごそとまさぐった。

さすがにイラつくわ。こっちは時間に押されてる。生活指導なんかに捕まったらメイクフルセット再購入の大金が飛んでいくんだぞ。

チッ!

わたしは口の中で小さく舌打ちした。
口の中で小さく舌打ちしたつもりだった。

かばんから別のカードを取り出して、やっと彼はバスを降りていく。
そこから間髪入れずにわたしも精算をするとバスを飛び降りた。

あーーーん。捕まるかもしれーーーん。

「レイタぁ、おっはー。この時間珍しいじゃん。」
なんて声をかけられているさっきのちんたら男を追い越してわたしは走り出した。

「舌打ちされた、あの女に。」

と背後から聞こえてくる。

げ。口の中でしたつもりの舌打ち聞こえてた?

本気の加速をする前にチラリと振り返る。
そこには不機嫌な表情でこちらを見る神経質そうな、近くの男子校の生徒が立っていた。

そっちが悪いんだろうがよ!顔覚えたからな!
でも今はとりあえず急いでんのよ〜っっ

その男子校生2人が「こっわ。」とばかにしたように言った言葉をエンジンにするかのように、わたしはダッシュで学校に向かった。
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