バスストップ
「明(めい)間に合ったんだねぇ〜」
教室で息切れを整えていると、トイレに行ってたらしい友達の春香(はるか)が濡れた手をブラブラ振りながら教室に入ってきた。

「危なかった感じ。めっちゃバス停からダッシュしたもん」
「おつかれさん。」
「バスで一緒だった黒校の男に絡まれて最悪だったんだけど。」
「えー、なんで?」

わたしが今日あった出来事を話すと、春香はスマホの画面を片手でスクロールしながら「ま、はっきり言ってどっちも悪いね。」と気持ちがこもっていない返事をした。

♪♪♪

春香のスマホの通知音が鳴った。

「うわ、音消すの忘れてたし。」
春香がスマホを慌ててマナーモードにしていると、教室の廊下側の窓からツインテールのチーちゃんが顔を出した。

「いたいたー、明さま、春香さま、おはよぉ。」

チーちゃんがわたしのことを様って呼ぶ時は何かある時、とわかっている。

「何よチー。そのツインテール、また合コン??」

春香は名探偵っぷりを発揮している。

「春香さま正解〜、急に決まったんだけどぉ、2人とも来てよぉ。」
チーちゃんはいつも通り少し間延びした話し方をする。
「どことよ?」
春香は相手の素性を聞いてから行くかどうか判断するらしい。
「今日の合コン相手は黒校だよ。」
わたしと春香は顔を見合わせた。
噂をすれば。
今朝もめた、バスでちんたら男の学校だ。
わたしは「黒校、インテリの集まりだから話が合わないよ絶対。」と机にひじをついて鼻から息を吐いた。

わたし達が通うのは緑川学園という偏差値低めの女子校で、その中でもわたしはすべり止めで入学したわけじゃなく、専願で入っているので選りすぐりのバカということになる。
対して「黒校」は黒谷高等学校という有数の進学校である。
学校同士はお隣といっても過言ではない近さだが、生徒間の距離は天と地ほどあるかもしれない。
わたしは相手がインテリすぎて気後れするし、相手もわたしがバカすぎて相入れないと思ってる、と思ってる。

「明が行くなら行ってもいいかな、わたしは。」
と春香が判断をわたしに委ねてしまった。
「え、ほんとぉ?じゃあ明さまおねがーい。黒校とマッチングなんてなかなか無いから逃すともったいないよ?」
チーちゃんの「マッチング」ワードにわたしは少し笑って(うーん)と考えた。
春香が「ってかチーさぁ。毎回思うんだけど、なんで合コンの時だけわたしらに声かけんの?普段から遊んでる友達に声かけたらいいじゃん。」と純粋な疑問を投げかけた。
するとチーちゃんは神妙な顔をして声をひそめるように顔を近づけてきた。
自然とわたし達も顔を寄せる。
「あんまりねえ、顔があんまりだと相手のテンションが下がっちゃうし、かと言って自分より絶世の美女つれてくのもしゃくに障るし。」
わたしと春香があからさまに眉間にしわを寄せた。
チーちゃんは窓から身を乗り入れて、わたしの両肩をがしっと掴みグラグラと揺らしてくる。
「明さまと春香さまはノリがいいし、顔が可愛いからだよぉ!!だから一緒に行こーよぉ!!」

チーちゃんはツインテールの見かけ通り、男子の前でしっかりぶりっこをする女子だ。
しかし、わたし達の前では普通。
むしろ本性はぶりっこではない。
そして、男子の前でそれを隠そうとしているけれど、いまいち装えていないので、わたし達に面白がられている。

「ちょっ、チーちゃん、わかったわかったから、離して…。」

ずっとグラグラし続けるので、わたしはチーちゃんの手を無理矢理どけた。

チーちゃんはにこっと笑うと「言ったね、今。」と悪役みたいなセリフを吐いた。
「んじゃ、16時に駅。明も春香も遅れたら死刑だからっ。」
とさっきまでの「様」付け呼びはどこに行ったのか。
最終的に脅迫して立ち去っていった。
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