君の胃袋を掴む
君の胃袋を掴む
ピンポーン、とチャイムを鳴らす。
返事もない。誰も出ない。
仕方ない、と鍵を挿し込んで回す。
「この前の女なんなの!?」
女の金切り声が額に飛んでくる。
なぜ、また、修羅場。
「この前もそうだったじゃん!」
女の声に何か返事をする。私はそろりとドアノブを離して鍵をかけ、開くのとは反対側の壁に待機した。
エコバッグの中に入っている冷蔵品たちが悪くなる前に、修羅場が終わることを願う。
蝉たちが鳴き始めている。初夏だ。
扉を閉めてしまえば、中の音は先程よりも外に響かない。やがて、勢い良く扉が開き、カツカツとヒールの音が遠ざかっていく。